更新日:2026年7月22日|カテゴリ:運用・トラブル
結論:HDD故障は「突然」ではなく予兆が出る。S.M.A.R.Tの5項目で多くは先回りできる(予兆なしの突然故障もある)
クラウドストレージ大手 Backblaze が数万台のHDDを分析した結果、故障したドライブの約76.7%が、故障前に S.M.A.R.T の重要5項目(ID 5・187・188・197・198)のどれかで「異常値(RAW値がゼロより大きい)」を示していたと報告しています。
とくに「代替処理済みセクタ数(05)」と「代替処理保留中セクタ数(197)」がゼロから増え始めたら、交換準備のサイン。RAIDを組んでいても、1台壊れたら再構築中に2台目が逝く「二重故障」でデータ全損のリスクがあるため、予兆を見つけたら早めに動くのが鉄則です。
1. そもそもS.M.A.R.T(スマート)とは?
S.M.A.R.T.(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)は、HDD/SSD自身が動作状態を記録・自己診断する仕組みです。各項目は「ID(番号)」と「RAW値(実数)」を持ち、代替したセクタの数や通電時間、温度などを記録しています。NASのOS(SynologyのDSMなど)はこの値を読み取り、異常があれば警告を出してくれます。
ポイントは「正規化値(100や253などの相対スコア)」よりも、項目によっては「RAW値(実際の回数・個数)」を見ること。とくに不良セクタ系はRAW値がゼロから増え始めた瞬間が重要なサインです。
2. 故障を予兆する重要なS.M.A.R.T項目
数十項目あるS.M.A.R.Tのうち、家庭用NASユーザーが押さえるべきは次の項目です。
| ID(10進/16進) | 項目名 | 意味 | 危険度 |
|---|---|---|---|
| 5(05) | 代替処理済みセクタ数 | 読み書きできない不良セクタを予備領域に振り替えた数。劣化の進行を表す | ★★★★ |
| 197(C5) | 代替処理保留中セクタ数 | 読み取りが不安定で「振替待ち」のセクタ。データ損失に直結しやすい | ★★★★★ |
| 198(C6) | 回復不能セクタ数 | 訂正できなかったセクタ。出たら危険信号 | ★★★★★ |
| 187(BB) | 報告された訂正不能エラー | ECCで訂正できなかったエラー数 | ★★★★ |
| 188(BC) | コマンドタイムアウト | 命令への応答が間に合わなかった回数。配線・電源・劣化のサイン | ★★★ |
| 194(C2) | 温度 | 高温が続くと寿命が縮む。目安は概ね50℃以下に | ★★(参考) |
| 9(09) | 通電時間 | 累積稼働時間。年数の目安に | ★(参考) |
Backblazeが重視する「5項目」
Backblazeは長年の運用と業界の知見から、メーカーをまたいで一貫性があり故障予測に有効な項目として SMART 5・187・188・197・198 の5つを採用しています。このいずれかのRAW値が「0」から「1以上」になったら要調査、というのが実務的な判断基準です。逆に言えば、これらがずっと0なら比較的安心の目安になります。
RAW値は「いくつになったら」危険?読み方の目安
S.M.A.R.T.の各項目には「現在値/最悪値/しきい値」という正規化スコア(多くは100や200から始まり、劣化すると下がる)と、「RAW値(実際の回数・個数)」が並びます。不良セクタ系(05・197・198)でまず見るのはRAW値です。目安は次のとおりです。
- 05・197・198のRAW値が「0」なら健全。この3つがずっと0を保っているHDDは、不良セクタ由来の故障予兆が出ていない状態です。
- 0から「1以上」に変わった時点で要調査。とくに197(保留中)・198(回復不能)は1でも要警戒。少数でも増加トレンドが続くかを毎月チェックします。
- 数十〜数百へ増え続ける、または短期間で跳ね上がるなら交換準備。「昨日まで0だったのが今週50」のような急増は、劣化が加速しているサインです。
具体的な「何個で必ず故障」という閾値はメーカー公表がなく、絶対的な数値基準は存在しません。ここでの目安は「0からの増加」と「増え続けるか」というトレンドで判断する一般的な考え方です。数値の解釈は使用ドライブのメーカー資料も併せて確認してください。
3. SynologyのDSMでHDDの健康状態を確認する手順
Synology NAS(DSM)なら、専用ソフトを入れなくてもブラウザだけでS.M.A.R.Tを確認できます。
- DSMに管理者アカウントでログイン
- メインメニュー → ストレージマネージャ → HDD/SSD を開く
- 対象ドライブを選び 「健康状態」 を表示(S.M.A.R.T属性の一覧と総合ステータスを確認)
- 「S.M.A.R.T.テスト」→「拡張テスト」→「起動」 で詳細スキャンを実行(時間がかかるため夜間推奨)
総合ステータスが「正常」以外(警告/重大)になっている、拡張テストが「失敗」または途中で止まる、不良セクタが増え続けている──このいずれかなら故障が強く疑われます。Synologyは月1回「ドライブ正常性レポート」も自動送付するので、メール通知を有効にしておきましょう。
QNAP NAS(QTS)の場合は、メインメニューから独立アプリの「Storage & Snapshots(ストレージ&スナップショット)」→ ストレージ → ディスク/VJBOD を開いて対象ドライブを選び、「ヘルス」→「S.M.A.R.T.情報」 からRAW値と診断テストを確認できます(Storage & SnapshotsはControl Panel配下ではなく独立したアプリです)。メーカーが違っても「不良セクタ系のRAW値が0から増えていないか」を見るという判断軸は共通です。
4. 数値だけじゃない「動作」の予兆サイン
S.M.A.R.Tに加えて、次のような体感サインも故障の前触れです。異音はとくに、S.M.A.R.Tが「正常」でも物理障害が進んでいることを示す代表例なので、数値と合わせて耳でも確認しましょう。
- 異音:後述の聞き分け表を参照。周期的な「カチカチ」音は要注意
- 転送速度が急に遅くなる:読み取りリトライで待たされている可能性
- 頻繁にフリーズ・ビジーになる/たまにドライブを見失う
- RAIDが「劣化(degraded)」通知を出す:1台がすでに脱落している状態
- 起動・マウントに異常に時間がかかる
NAS HDDの異音の聞き分け表
| 音の種類 | 状態 | 危険度 |
|---|---|---|
| 起動時の「ウィーン」「カチッ(1回)」 | スピンアップ・シーク音。正常動作の範囲 | 問題なし |
| アクセス時の「カリカリ」「コツコツ」(不定期) | 通常の読み書き音。データ処理中のサイン | 問題なし |
| 周期的な「カチッ、カチッ」の繰り返し | ヘッドが退避を繰り返す「クリック・オブ・デス」。物理障害の疑い | ★★★★★ |
| 甲高い「キーン」「ピー」の連続音 | スピンドルモーター・軸受けの異常が疑われる | ★★★★ |
| 「ガリガリ」「擦れる」ような音 | ヘッドがプラッタに接触している可能性。データ損失リスク大 | ★★★★★ |
| 「カタカタ」振動を伴う音 | マウント緩み・ファン干渉のことも。まず固定と設置を点検 | ★★(要切り分け) |
周期的なカチカチ音や擦れる音など物理障害が疑わしいときは、通電やアクセスを続けるほど症状が悪化しがちです。重要データがあるなら通電を止め、障害別のデータ復旧フローで次の一手(自力対応の可否・専門業者の判断)を確認してください。予兆の段階を過ぎてしまった場合の受け皿になります。
5. 交換タイミングの判断基準
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 総合ステータスが「警告」「重大」 | 即交換 |
| S.M.A.R.T拡張テストが失敗 | 即交換 |
| 197(保留中)・198(回復不能)が1以上 | 即交換準備(増加中なら最優先) |
| 05(代替済み)が0から増え、増え続ける | 早めに交換 |
| 187・188が継続的に増える | 警戒(配線・電源も点検) |
| RAIDが劣化通知 | 即交換(※下記の注意) |
| 温度が常時50℃超 | 設置環境を改善(故障要因) |
RAIDは「1台壊れても止まらない(可用性)」ための仕組みで、バックアップの代わりにはなりません。とくに同時購入・同型番のHDDは故障時期も近くなりがちで、1台交換後の再構築(リビルド)中に2台目が脱落してデータ全損という事故が実際に起きます。劣化を見つけたら迅速に交換しつつ、必ず別媒体へのバックアップ(3-2-1ルール)も併用してください。
S.M.A.R.Tで警告が出たら、まずこの3ステップ
- バックアップを最優先で取る:交換やテストより先に、まだ読めるうちに重要データを別媒体へ退避します。すでにRAIDが劣化中なら、負荷をかける操作は最小限に。
- 状態を確定する:拡張テストと健康状態で、どの項目が悪化しているか(05・197・198が増えていないか)を記録します。
- 同容量以上のCMR HDDを用意して交換:RAIDなら1台ずつ交換してリビルド。リビルド中は高負荷で2台目が脱落しやすいため、ステップ1のバックアップがここで効いてきます。
6. 交換用HDDの選び方
交換するならNAS用のCMR方式HDDを選びましょう。定番は Western Digital「WD Red Plus」や Seagate「IronWolf」です。24時間稼働・振動耐性を前提に設計されています。容量は現在使用中のドライブと同容量以上が原則(RAIDは最小容量に合わせるため)。
SMR方式のHDDはRAID再構築時に極端に遅くなり、リビルド失敗のリスクが上がります。NASではCMR方式を選んでください(WD Red Plus・IronWolfはCMR)。なお2026年はNAS向けHDDが値上がり傾向(生成AI・データセンター需要の影響)のため、予兆が出てから慌てず、早めに1台予備を確保しておくと安心です。
まずは1台、いま使っているドライブと同容量以上のCMRを予備に。迷ったら家庭用2ベイの定番、WD Red Plusの4TBあたりが無難です(価格・在庫は変動するので執筆時点の目安として確認してください)。
7. 故障を遠ざける予防策
- UPS(無停電電源装置)を併用:停電・瞬電は書き込み中のデータやファイルシステムを壊す代表的な原因。NASとUPSをUSBで連携させ、停電時に自動で安全シャットダウンを。
- 温度管理:直射日光・密閉空間を避け、風通しのよい場所へ。高温はHDD寿命を縮めます。
- データスクラビング:DSMの定期スクラビングで「ビットロット(静かなデータ破損)」を早期検出(深夜にスケジュール)。
- 月1回のS.M.A.R.T拡張テスト+正常性レポートのメール通知ON。
- 3-2-1バックアップ:データ3つ・媒体2種類・1つは別の場所。RAIDだけに頼らない。
停電・瞬電による書き込み中のデータ破損を一台で防ぐなら、家庭用NASに手頃な小型UPSから始められます(価格・在庫は変動します)。
8. よくある質問(FAQ)
まとめ:予兆を「数値」と「音」で早期発見し、迅速交換+バックアップ
この記事の要点
- 故障の約77%は事前にS.M.A.R.Tの5項目(5・187・188・197・198)で予兆が出る
- とくに197(保留中)・198(回復不能)が1以上、05(代替済み)が増加中なら即対応
- DSMは「ストレージマネージャ→HDD/SSD→健康状態→S.M.A.R.T拡張テスト」で確認
- RAIDはバックアップではない。予兆→迅速交換+3-2-1バックアップ
- 交換はNAS用CMR(WD Red Plus/IronWolf)。UPS・温度管理・スクラビングで予防