NASに写真も書類も入れ終わったのに、バックアップだけ手つかず。よくある状態です。RAIDを組んでいても、誤って消したファイルやランサムウェアに暗号化されたファイルは戻りません。

Synology NASの自動バックアップは「Hyper Backup」で完結します。インストールし、USBポートに挿した外付けHDDをバックアップ先に指定して、スケジュールを1回設定すれば終わりです。

先に押さえるのは2点。圧縮(作成後は変更できないとSynologyのKBが案内)とバージョンタイプ(変えるならタスクごと作り直し)を最初に決めることと、復元のしかたを知っておくことです。「複数バージョン」で取ったバックアップは、PCに挿しても普通のフォルダとしては開けません。

コピーを何個どこに置くかの設計はNASのバックアップ方法【3-2-1ルール完全解説】、外付けHDDの選び方とフォーマットは外付けHDD・SSDの選び方が担当です。

画面の文言はDSMのバージョンで変わります
本記事の手順・ボタン名はDSM 7.x時点のSynology公式ヘルプに基づいています。DSMの更新でUIの文言や並びが変わるため、画面と一致しない場合は同じ意味の項目を探してください(Hyper BackupはDSM 6.0以上が対象です)。

始める前に決めておく3つのこと

タスク作成ウィザードは、途中で「やり直しの効かない選択」を求めてきます。先に3つ決めれば作り直しになりません。

① 何をバックアップするか

Hyper Backupの対象は「システム全体」「フォルダー」「ファイル」「LUN」に加えて「パッケージとシステム設定」です。ただしシステム全体をまるごと保存できるバックアップ先は「リモートSynology NAS」と「Synology C2 Storage」に限られます。

外付けHDDが相手なら選ぶのは「フォルダとパッケージ」で、共有フォルダとパッケージの設定が対象です。

出典:Hyper Backup テクニカルスペック(Synology公式)

② 複数バージョンか、単一バージョンか

ウィザード序盤の分岐で、いちばん事故が多い場所です。

項目 複数バージョン 単一バージョン
保存形式 Synology独自の.hbk形式 オリジナルのフォーマットおよびフォルダ構造
読み取り手段 Hyper Backup/Hyper Backup Explorer/Hyper Backup Vaultのみ 一般のPCでそのまま開ける
世代 複数世代を保持(ローテーション設定あり) 最新1バージョンのみ。古いデータは上書き
暗号化・圧縮 利用できる 利用できない

世代をさかのぼりたいなら複数バージョン、NASが動かない状況でPCに直挿しして取り出したいなら単一バージョンです。作成後にタイプだけを切り替える手順は、当サイトで確認した範囲では公式に見当たりません。変えるならタスクの作り直しになります。外付けHDDのフォーマット(ext4かNTFSか)とセットで決める話です(判断材料は外付けHDD・SSDの選び方)。

出典:ディスティネーション|Hyper Backup(Synology)/Hyper Backup テクニカルスペック

③ 圧縮を使うか

「バックアップ データを圧縮」は、タスク作成時にしか設定できません(作成後は切り替えられないとSynologyのKBが案内)。保存先の容量に不安があるなら最初から有効に。

出典:バックアップ元と先でサイズが違う理由(Synology)


外付けHDDへバックアップする手順(DSM 7.x)

準備:外付けHDDをUSBポートに挿す

外付けHDDをNAS背面のUSBポートに挿すと、DSMはusbshare1のような共有フォルダを自動作成します(取り外すと自動削除)。フォーマットと取り外しはコントロール パネル > 外部デバイスの「フォーマット」「イジェクト」から行います。バックアップ先には8GB以上の空き容量が必要です(Synologyが示す最低要件)。

フォーマットすると、その外付けHDDの中身は消えます
DSMのフォーマットは対象ドライブを初期化する操作です。すでにファイルが入っているHDDを使い回すなら、先に別の場所へ退避してから実行してください。実行前に、選んだドライブが目的のものか確認してください。操作は自己責任でお願いします。

出典:外部デバイス|DSMヘルプ(Synology)/Hyper Backup テクニカルスペック

タスク作成の手順

  1. DSMにサインインし、パッケージ センターから「Hyper Backup」をインストールする
  2. 「Hyper Backup」を開く
  3. 左上隅の「+」アイコンをクリックし、「フォルダとパッケージ」を選択して「次へ」
  4. バックアップ先に「ローカル共有フォルダまたは USB」を選択して「次へ」
  5. バージョンタイプ(「複数バージョン」または「単一バージョン」)を選ぶ
  6. 「バックアップ タスクを作成」を選び、バックアップ先とディレクトリ名を指定する
  7. バックアップ対象のソースフォルダを選択する
  8. バックアップしたいアプリケーション(パッケージ)を選択する
  9. 設定を指定する(次の表を参照)
  10. 「バックアップ ローテーションを有効にする」を選び、ローテーション スキームを設定する
  11. 「適用」をクリックする
  12. 「はい」をクリックすると、その場で1回目のバックアップが始まる

作成後の変更は画面右下の「設定」から(圧縮を除く)。

出典:Hyper Backupでローカル共有フォルダまたはUSBにバックアップする方法(Synology)

手順9の設定項目(スケジュールで自動化する)

設定項目 何を決めるか
タスク タスク名。複数運用するなら区別できる名前に
タスク通知を有効にする 成功・失敗の通知。設定して放置する運用なら有効に
バックアップ データを圧縮 作成後は変更できない
バックアップ スケジュールを有効にする 自動化の本体。実行するタイミングをここで決める。未設定だと手動実行のみ
整合性チェックを有効にする 壊れていないかを定期的に検査する
クライアント側の暗号化を有効にする AES 256ビットで暗号化。プライベートキーは自動でダウンロードされ、他所へは送信されないとSynologyは説明している

スケジュールの間隔は失っても許せる作業量から逆算します。毎日1回なら、失うのは最大1日分です。初回は全データを転送するので、NASを使わない時間帯に。

暗号化する場合、復元時にはパスワードまたは暗号化キーが必須です。両方を失うと、バックアップデータを取り出す手段はありません。キーはNAS本体とは別の場所に保管してください。

出典:バックアップ設定|Hyper Backup(Synology)


バージョン管理(ローテーション)の選び方

複数バージョンを選んだときに設定するのがローテーションです。保持できるのは最大65,535バージョン、方式は3つです。

方式 動作 向いている使い方
最初のバージョンから 「保持するバージョンの最大数」を超えたら古い順に削除する 直近◯回分だけ残ればよい
Smart Recycle 指定数を超えるまでは全バージョンを保持し、超えたら時間単位→日単位→週単位と、古くなるほど粗く間引いて残す 昨日の状態も、先月の状態も残しておきたい
カスタマイズした保持ポリシー 保持期間とバージョン間隔の組み合わせを最大7ルールまで設定する(例:保持期間1ヶ月・間隔1週間なら4バージョンが残る) 保持ルールを自分で設計したい

設定画面の「タイムライン」で、その条件でどのバージョンが残るか事前に確認できます。迷ったらSmart Recycleで始め、残量を見て調整します。

出典:バックアップ設定|Hyper Backup(Synology)/Hyper Backup テクニカルスペック


バックアップ先の容量はどれくらい必要か

「30世代なら使用容量の30倍」といった目安を見かけますが、必要容量の計算式は、当サイトで確認したSynologyの公開ドキュメントに見当たりません。公式が示すのは次の3点です。

  • バックアップ先には8GB以上の空き容量が必要(最低要件)
  • ブロックレベルの増分バックアップと重複排除・圧縮が効くため、保存量は世代数とデータ量の単純な掛け算にはならず、元と保存先のサイズも一致しない
  • それでも履歴バージョンを持つほど容量は増える(容量不足が起きる主因)

足りなくなったときの対処も公式にあり、2方向です。①不要なバージョンを削除するか「保持するバージョンの最大数」を減らす、②保存先の容量を増やす(ボリュームの拡張、大容量の外付けHDDへの交換など)。

出典:バックアップ先のクォータ不足を通知されたとき(Synology)/バックアップ元と先でサイズが違う理由

バックアップ先の外付けHDDの例です(4TB)。世代を残すぶん保存先には余裕が要るので、いまNASで使っている容量より一段上を選ぶと、あとで世代数を削らずに済みます。元データが多いなら記事末の6TBクラスが候補です(カードは販路限定型番 HD-SGDA6U3-B/NA で、楽天市場・Yahoo!ショッピングのボタンは通常型番 HD-SGDA6U3-B の検索結果に移動します)。容量・電源方式・記録方式(CMR/SMR)などの選定条件は外付けHDD・SSDの選び方にまとめています。


復元の手順:4つのルート

バックアップは戻せて初めて意味を持ちます。入口は状況別に4つです。

先に知っておくこと

複数バージョンで取ったバックアップは.hbk形式で保存され、Hyper Backup/Hyper Backup Explorer/Hyper Backup Vaultでのみ読み取れます。外付けHDDをPCに挿しても、写真フォルダとしては開けません。「いざとなればPCに挿せばいい」という前提で運用すると、必要なときに詰まります。

ルート①:既存タスクからまとめて戻す(NASが動いている)

  1. 「Hyper Backup」を開く
  2. 左側パネルで「復元」→「データ」を選択する
  3. 復元するバックアップタスクを選ぶ
  4. 復元するシステム構成のバージョンを選ぶ
  5. 復元するフォルダとバージョンを選ぶ
  6. 復元するパッケージを選ぶ
  7. 概要を確認して「適用」をクリックする

パスが競合するファイルは、復元されたバージョンで上書きされます。NAS上のファイルのほうが新しければ、その変更は失われます。丸ごと戻す前に確認してください。

ルート②:ファイル1つだけ取り出す(バックアップ エクスプローラー)

「あの1ファイルだけ先週の状態に戻したい」なら、丸ごと復元は不要です。Hyper Backup(DSM)内のバックアップ エクスプローラーでタスクを選び、タイムラインでバージョンを指定し、ファイルを選んで「復元」「にコピー中...」「ダウンロード」のいずれかを実行します。キーワードやファイルタイプで絞り込めます。

「コピー」と「ダウンロード」では権限設定が保持されません
Synologyは、「にコピー中...」「ダウンロード」で取り出したファイルには権限設定が引き継がれないと注記しています。共有フォルダのアクセス権もそのまま戻すなら「復元」を使います。

出典:復元|Hyper Backup(Synologyナレッジセンター)/Hyper Backupで設定・アプリ・ファイル・権限を復元する方法

ルート③:タスクが消え、.hbkだけが残っている

NASを初期化した、別のNASに外付けHDDをつなぎ替えた——DSM側にタスクが無い状況です。既存の.hbkにタスクを結び直します。

  1. Hyper Backupを開き、「復元」→「データ」を選ぶ
  2. 復元ウィザードで「既存のリポジトリから復元」を選ぶ
  3. .hbkファイルの保存場所を指定する
  4. 構成・フォルダ・バージョン・パッケージを選ぶ
  5. 「適用」をクリックする

各.hbkは1つのタスクにしかリンクできません。また、単一バージョンとLUNバックアップは再リンクに対応していません(DSMでの制限)。単一バージョンはオリジナルのフォルダ構造で保存されているので、ファイルを直接コピーします。

出典:タスクが失われ.hbkのみでバックアップデータを復元する方法(Synologyナレッジセンター)

ルート④:NASが使えない状態で、PCから取り出す

NAS本体が故障して起動しないときの受け皿が Hyper Backup Explorer です。SynologyがWindows・macOS・Ubuntu・Fedora向けに配布するデスクトップアプリで、.hbkの中身を閲覧・ダウンロードできます。入手先は公式のダウンロード センター(製品モデルを選び「デスクトップ ユーティリティ」タブ)。

起動したら「ローカル バックアップを閲覧」を選び、SynologyHyperBackup.hbkを開きます(暗号化しているならパスワードを入力)。バージョンはカレンダーアイコンや矢印ボタンで切り替え、取り出したいファイルを右クリックして「コピー先」を指定します。

NASが動いているうちに、復旧用PCへExplorerを入れて起動確認まで済ませておくと安全です。

出典:Hyper Backup Explorerでバックアップファイルを取り出す方法(Synology)/Hyper Backup 機能ページ

NASを買い替えて「システム全体」を移したい場合(番外)

上の4ルートとは別に「復元」→「システム全体」という復元モードもあります。ただし復元先のモデル・ドライブ本数・容量に条件があり、手順はNASの買い替え・データ移行にまとめてあります。


設定したあとにやること

自動バックアップは、止まっていても誰も教えてくれません。設定後は次の2つを習慣に。

  • 整合性チェックをスケジュールする:「バックアップ データのチェック」(元データとの一致・不良セクタの検出)と「インデックス構造のチェック」(復元できる状態かの判定)の2段階です。Synologyはスケジュール設定を推奨する一方、推奨頻度は当サイトで確認した範囲では示されていません
  • 復元を1回試す:ルート②でファイルを1つ別の場所へ取り出す。これだけで「戻せる状態か」が確認できます

バックアップが無い状態でNASが壊れたときの対処はNAS壊れた!データ復旧できる?、クラウドを保存先にする設定手順はNASのバックアップ方法【3-2-1ルール完全解説】、クラウド選びはNASとクラウドの比較にあります。

出典:Hyper Backupタスクのバックアップ整合性チェックとは(Synologyナレッジセンター)


よくある質問(FAQ)

Q1. 外付けHDDをPCに挿せば、バックアップしたファイルをそのまま開けますか?
A. 複数バージョンで取っている場合は開けません。.hbkというSynology独自の形式で保存され、Hyper Backup/Hyper Backup Explorer/Hyper Backup Vaultでのみ読み取れます。外付けをNTFSでフォーマットしても同じです。PCから直接開きたいなら、タスク作成時に「単一バージョン」を選びます(最新1世代のみ・暗号化と圧縮は使えません)。
Q2. 何世代残すと、どれくらいの容量が必要になりますか?
A. バージョン数から必要容量を求める計算式は、当サイトで確認したSynologyの公開ドキュメントには見当たりません。示されている数値は「バックアップ先に8GB以上の空きが必要」という最低要件だけです。
Q3. 暗号化のパスワードを忘れました。復元できますか?
A. パスワードも暗号化キーも手元に無ければ、復元はできません。クライアント側の暗号化を有効にするとプライベートキーが自動でダウンロードされます(Synologyは他所へ送信されないと説明)。このキーとパスワードは、NASの中だけでなく別の場所にも保管してください。
Q4. NASを初期化してしまい、バックアップタスクが消えました。外付けHDDだけで戻せますか?
A. 複数バージョンなら、.hbkが残っていれば戻せます。復元ウィザードで「既存のリポジトリから復元」を選び、.hbkの場所を指定してタスクを結び直します。ただし各.hbkは1つのタスクにしかリンクできず、単一バージョンとLUNバックアップは再リンクに対応していません。

まとめ

  • 外付けHDDが相手なら「フォルダとパッケージ」を選ぶ。システム全体を保存できる先はリモートSynology NASとC2 Storageだけ
  • 圧縮は作成後に変更できない。バージョンタイプは変えるならタスクごと作り直し。世代を残すなら複数バージョン、PCで直接開きたいなら単一バージョン
  • ローテーションは3方式。迷ったらSmart Recycleで始め、残量を見て調整する
  • 必要容量の計算式は当サイトで確認した範囲では公式に見当たらない。示されているのは8GB以上という最低要件だけ
  • 復元は4ルート。ファイル単位の取り出しは「コピー」「ダウンロード」だと権限が保持されない
  • .hbkはHyper Backup系のツールでしか読めない。Explorerは、NASが動いているうちに復旧用PCへ入れておく

設定が終わったら、その日のうちにファイルを1つ復元してみてください。戻せることを確認したバックアップだけが、本当のバックアップです。